まだ生きる気か

2012年7月15日
母たちはきのうの昼に、市役所の出張所へ避難した。集会所が併設されていて、私が百人一首の稽古のために、小学生のときほとんど毎週通っていたところ。町内会長が早く避難しろってうるさかったー、と愚痴をこぼす。お母さん、そういうことは聞こえないところで言わなきゃ、と返すと、あはは、ちゃんと聞こえないところで言ってます、と威勢良く請け負った。
きょう電話をかけると、疲れた、と覇気のない声。お母さん昨日の元気はどこに行ったの? と問うと、寝れなかったから、疲れた、と言う。私は正座してしびれた足に触れる硬い床をおもいだす。きょうは帰れると思うけど、雨が止まない、止んだかと思うとぶあーと降ってくるもん。私は言うことに困り、早く帰れるとよいね、と言って電話を切る。

妹に電話をすると、彼氏の家で丸裸になって漫画を読んでいると言う。暑い、暑くてたまらない、おねえちゃん、暑い。母の避難が泊りがけのステイになったことを言うと、まじやばいね、やばすぎて笑える、と妹が言う。私はきのうの母の威勢のよさと、きょうの元気のなさのコントラストとを、口調を真似て伝えようとするさきから、がくがく笑ってしまう。それから、地元のツタヤが先週の豪雨で半分水没したのをふたりして笑う。Y町のサイクリングロードの鉄橋が流されたのを笑い、あのサイクリングロードを自転車が走っているのを、みたことない、と妹が言い、私も同意し、笑う。
そういえばじいちゃんが、入院しているらしい、と妹が教えてくれる。そんなのお母さんひとっことも言ってなかったけど、と驚く私に、「なんか脳の血管が詰まりかけたとか何とか言ってた」と詳細を述べたあと、「ばあちゃんもじいちゃんもすごいよね」と感心する。「じいちゃんは朝、口がうまく回らないってんで、その日のうちに病院に行ったんだよ。ばあちゃんも、頭が痛いって言って病院に行ったら、脳梗塞になりかけだったでしょ」
「運がよかったって言いたいの」「ちがうよー。そろそろあきらめてもいいんじゃない? と思った。なんていうかー、まだ生きる気か、と思った」「あー。そりゃあのひとたちは、自己愛が強いから」「じこあい?」「うーん、自己愛が強いとかは違うかも、お母さんも強いしね…なんていうかとにかく、あの二人は…生への執着がすごい。というか、現世への執着が」
「あはは」2人して笑いを唱和する。笑うべきことを笑うとすっきりした。

夜8時ごろ、避難指示が解除されて、家に戻ったと言う母から電話。きのうお風呂に入れなかったのを、今から入って、寝ます、と言う。

母はいきなり死ぬタイプかも知らない、と縁起でもないことを考えついたのにとらわれる。こんな強迫観念のようなのは、あまり大事にしたくない。

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