私が古本屋で手に入れたのは、この表紙ではなく、肌色したカバーのものだったけど。

台風でなかなかすすまない電車のなかで読んでいたら、猫を飼った経験がないせいか、むかし飼っていた犬のことをおもい出してしまう。なにも共通点などないのに。
うまい具合にぼやけているため美化された記憶のなかのクロは、ハンサムである。小柄な中型犬、毛があほみたいにもさもさしていたなかった、黒目がちのぱっちりした目、でもかわいさや優しさというものを表象しているわけではない目、あの目を何ていったらいいだろうか!
クロがハンサムであったと断言しうる所以、追憶に値する美点をつぎつぎあげて、(もしくは、つむぎあげて)、心細さを味わう。ひとりの帰り道、クロが併走してくれたらよいのに、もしくは帰る場所に、頬杖をつくように寝そべって、けものらしく匂うクロがいてくれたらよいのに。(私の家には犬にシャンプーしてやるような今風の習慣はなかった)。

とはいえ私はかいがいしく散歩させたり世話したりしていたわけではなく、どちらかといえば妹のほうがクロと仲がよかったのだけど。
クロもこんなふうに思い出されてはいい迷惑だわ、とおもいながら、クロがいてくれないかな、とまた私の心がつぶやくのである。

きょうは、数年前クロが死んだと聴いたときよりもだいぶ、クロのいないことが心細かった。

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